3・23 いわき市民訴訟(判決後記者会見)
2022(令和4)年6月17日最高裁判決(国の事故への法的責任を否定)を覆し、国の規制権限不行使の責任を認めさせることが出来るか?
<責任論>
1 一審被告国の責任について
本判決では、長期評価の信用性の存在は前提にした上で、2003(平成15)年以降8年2か月もの間、技術基準適合命令を発しなかったことは、原子力基本法の基本方針に反し、電気事業法に違反する「違法な不作為」であったと断じた。
しかし、本判決は、国が技術基準適合命令を2002(平成14)年末に発していれば、本件事故を回避することができる相当程度高い可能性があったとしながら、「津波に対する防護措置について幅のある可能性があり、とられる防護措置の内容によっては、必ず本件津波に対して施設の浸水を防ぐことができ、全電源を失って炉心溶融を起こす重大事故を防ぐことができたはずであると断定することはできない」とし、因果関係が認められないとして、国の責任を最終的には認めなかった。
本判決は、長期評価について信用性を前提にしていること、平成15年以降も国が技術基準適合命令を発しなかったことについて「違法な不作為があった」と断定したこと、さらにはこれを発令していれば、本件事故を回避することができる相当程度高い可能性も認めた。これらの点については、原告らの主張に沿うものであり、特に国の不作為を「違法」と断じたことは評価に値する。
しかし、本判決は、因果関係の要件を「必ず」防げたかとし、結局、昨年6月17日の最高裁でなされた因果関係を否定した判断に追従してしまう内容となってしまった。これは、本来、原子炉の安全性確保及びそのための防護措置の検討・確定は、原子力事業者と国の責任領域であるにもかかわらず、原告らに不当に高い立証責任を求めるもので不当であるのみならず、国が義務を果たさなければ果たさないほど、原告らの立証が困難になるものであり、極めて不当である。
2 東京電力の責任について
判決は,被告東京電力について無過失責任である原賠法により賠償責任について判断しているものの,一審被告東京電力において、「平成20年4月に東電設計から長期評価により想定される津波の試算を受け、敷地高さを超える津波による施設の浸水を防ぐ対策を検討したにもかかわらず、平成20年7月には対策を先送りすることを決定し、何ら対策を講ずることなく」本件事故を発生させたことについて「原子力発電所の安全対策についての著しい責任感の欠如を示すものである」とし、被告東電が、福島第一原発に「本件事故と同程度の津波が到来し、浸水により電源設備が機能を喪失して重大な原発事故が発生することを具体的危険として認識しながら、経営上の判断を優先させ、原発事故を未然に防止すべき原子力事業者の責務を自覚せず、周辺住民の生命身体の安全や環境をないがしろにしてきたというほかない」との判断を示し、一審被告東京電力の責任を厳しく断罪したものである。
<損害論>
仙台高裁判決では、被侵害利益や故郷損傷についての検討が不十分、被害の継続性の認定は短期にとどまったなど、多くの課題を残したものでした。それゆえに、認容額も、原告たちが求めた内容には程遠いものとなっています。
もっとも、本件訴訟で原告たちが最も強く求めてきたのは、国家賠償の前提としての、原発政策を推進してきた国の法的責任を十分に認めさせることです。事故への国の法的責任を認めさせなければ、被害者たちへの十分な賠償や救済政策を実現させることはできないでしょうし、今後の日本の原発政策は不十分な安全対策のもとでの推進に回帰されかねないと考えるからです。
そのため、上告審では国の責任論により一層の力を集中することにし、損害論として求める賠償額は、仙台高裁判決での認容額+各原告につき1万円ずつにとどめています。
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